マイクロプラスチック
分析マニュアル
九州大学 応用力学研究所 海洋力学分野
本マニュアルは、多くの研究室がマイクロプラスチックの取り出しを行えるよう、
当研究室における手順をウェブで公開するものです。論文等に引用する場合は、
以下の文献を記載してください。
Michida, Y. et al., “Guidelines for harmonizing ocean surface microplastic monitoring methods”, Ministry of the Environment, Japan, 71 pp, 2019
Alfonso, M. B., K. Takashima, S. Yamaguchi, M. Tanaka, and A. Isobe "Microplastics on plankton samples: multiple digestion techniques assesment based on weight, size, and FTIR spectoroscopy analyses" Marine Pollution Bulletin, 173, 113027, 2021.
当研究室では、海表面で採取した海水サンプルのマイクロプラスチックの個数を
サイズごとに集計しています。
測定するプラスチック片のサイズ範囲は約0.3mm~5cmです。
「ギャラリー」にも作業風景や、ホーム画面に載せていない器具類を紹介しています。
~マイクロプラスチック分析フローチャート~
1. サンプルボトル開封
↓
2. 薬品処理による有機物除去 (有機物の量が多い場合に行う)
2-1. 水酸化カリウム溶液への浸漬処理
2-2. フェントン反応
↓
3. プラスチック採取・ソーティング
↓
4. 濾過作業
↓
5. プラスチック粒子の撮影とFTIR分析
5-1. 顕微鏡写真の撮影
5-2. FTIR分析
↓
6. サイズ計測と集計
1. サンプルボトル開封
★開封作業のyoutube動画はこちら
使用する器具
白衣、マスク、ゴム手袋、キムタオル、洗浄ビン、水道水
0.3mm目合いのニューストンネット、2Lプラスチックビーカー(手付き)、固定用クリップ 、 サンプル保管用ボトル
<留意点>
・海水サンプルの腐敗防止にホルマリンを2%添加しているので、吸入や皮膚等への付着に注意し、白衣、マスク、ゴム手袋を着用する。サンプル原液を取り扱う際は必ずドラフトの下で開封する。ホルマリン廃液は20Lタンクに保管し、適切に処理する。
・当研究室では、約0.3mm~5cmのプラスチック片、発泡スチロール片、プラスチック製の漁網・釣り糸を採集し、各々のサイズごとの個数を集計している。
・作業途中に紛失・破損してしまったものは、計測できなくなるので注意。
<作業手順>
① プラスチックビーカー(2L)に0.3mmの目合いのニューストンネットをクリップで固定し、そこへ海水サンプルを流し込む。サンプルボトルの内壁を数回洗い、同様に流し込む。
この時サンプル中に大量の自然由来物がある場合(2Lのサンプルボトルであれば約1/3以上を占めるとき)溢れてしまうことがあるので、必要に応じ数回に分けて作業を行う。
※0.3mm目合いの網目の対角線部分は0.4mmを超えてしまう。そのため、通り抜けた海水には約0.3mm~0.4mmの微細なプラスチックが含まれていることがあるので、後で吸引濾過を行いチェックする。(それまでサンプルボトルに戻し冷蔵保管しておく)
※薬品処理による有機物除去を行う場合はここで「2.薬品処理による有機物除去」 の項へ進む。
薬品処理を行わない場合は、以下②、③の作業の後、「3. プラスチック採取・ソーティング」の項へ進む。
② ネットに残ったサンプル内容物に洗浄ビンを用い水道水を吹き付け、ホルマリンを洗い流したのち、水道水でプラスチックビーカーに洗いこむ。ネットの表と裏を洗い、残っているものがないようにする。
③ ②を「3. プラスチック採取・ソーティング作業」に供する。すぐに作業しないときはサンプル保管用ボトルに移し冷蔵保管する。この時プラスチックビーカーの内壁もよく洗い、残っているものがないようにする。
注)サンプルが複数ある場合、作業途中で入れ替わったりすることのないよう、作業途中のサンプルボトルや取り出したマイクロプラスチックの保管場所にテープや付箋でサンプル番号を付しておく。
サンプルボトル
サンプルにはプランクトン、小魚、貝殻、藻、海藻、木屑等の様々な自然由来物が混入している。
ニューストンネット
株式会社田中三次郎商店にて購入。
材質:ナイロン
約25cm四方にカットして使用。
0.3mm目合い 規格名:58GG-300 (巾規格158cm)
0.2mm目合い 規格名:7XXX-200 (巾規格154cm)
ピンセット (右から)
3C grip (AS ONE品番:3-1611-11)
SS grip (AS ONE品番:3-1611-21)
ステンレスピンセット(AS ONE品番:3-6681-01)
先端が細いものは精度が狂いやすいので取り扱い注意。
先がカーブしているものはプランクトンや藻をつまみ取るときに適している。
2. 薬品処理による有機物除去
☆サンプルに含まれる有機物(藻、プランクトン、小魚など)が多い場合、効率よく有機物を除去するために「水酸化カリウム溶液への浸漬」および「フェントン反応」による 2段階消化を行う。この方法は各種プラスチックのサイズや赤外スペクトルに影響を与えないことを検証済み(論文はこちら)。
2-1. 水酸化カリウム溶液への浸漬処理
使用する試薬・実験器具
白衣、マスク、ゴム手袋、保護メガネ、水酸化カリウム(特級)、精製水、洗浄ビン、電子天秤、メスシリンダー、薬さじ、500mlガラスビーカー、 スターラーバー、スターラー、マグネット(スターラー固定用)、漏斗、試薬びん、 500mlガラスジャー、恒温器または乾燥器(40℃に設定できるもの)
0.3mm目合いのニューストンネット、プラスチックビーカー(1Lまたは2L)、固定用クリップ、ピンセット、廃液タンク(20L)←※アルカリ廃液用。
<留意点>
・作業はドラフト内で行う。白衣、マスク、ゴム手袋、保護メガネを着用する。
・水酸化カリウムは劇物であるため、安全データシートを参照し取り扱 いや保管に注意。
<10%(w/w)水酸化カリウム溶液調製手順>※必ずこの順番で行うこと!
① 精製水450mlを 500mlガラスビーカーに入れる。
② ①へ水酸化カリウム50gを2~3回に分けて加え、スターラーで撹拌し溶解させる。
③ 漏斗を用い試薬びんに移し、保管する。
<作業手順>
① 「1. サンプルボトル開封」の作業手順①と同様、海水サンプルを0.3mm目合いのニューストンネットで濾し(濾した海水は下記4の項に記載の濾過作業を行う)、およそ2~3cmより大きい物質(自然由来物およびプラスチック)を精製水で洗いながらピンセットでつまみ出す。この時取り出した自然由来物は廃棄し、プラスチックは5cm以下であれば保管し撮影(顕微鏡撮影が可能な場合のみ)・サイズ測定を行う。
② ネットに残ったサンプル内容物の水気を軽く切り、薬さじですくい集め500mlのガラスジャーに入れる。ネットに付着したサンプルは、洗浄びんに入れた10%水酸化カリウム溶液を吹き付けて洗い流し1Lポリビーカーに受け、ガラスジャーにうつす。ポリビーカー内に残るものがないよう、 10%水酸化カリウム溶液でガラスジャーへ洗い込む。
③サンプルが全て液に浸るよう、10%水酸化カリウム溶液を追加する。 水酸化カリウム溶液 の量の目安としては水を切ったサンプル重量10gに対し100ml程度。
④ガラスジャーの蓋を閉め、40℃に設定した恒温器または乾燥器に入れ、72時間浸漬。
⑤浸漬処理を終えたサンプルは「2-2. フェントン反応」を行う。
2-2. フェントン反応
使用する試薬・実験器具
白衣、マスク、ゴム手袋、保護メガネ、30%過酸化水素(特級)、硫酸鉄7水和物(特級)、濃硫酸(98%・特級)、精製水、洗浄ビン、電子天秤、メスシリンダー、薬さじ、500mlガラスビーカー、太穴メスピペット、安全ピペッター、漏斗、試薬びん、有害ガス除去装置付きのドラフト(←濃硫酸使用の場合は必須)、1Lガラストールビーカー、スターラーバー、ホットスターラー、マグネット(スターラー固定用)、50mlメスシリンダー(過酸化水素用、Fe(Ⅱ)溶液用の2本)、温度計(薬品処理を行うビーカー1つにつき、1つずつ必要)、ラップまたはアルミホイル、水浴用の容器(2-1の項のサンプル受け器等)、0.2mm目合いのニューストンネット、プラスチックビーカー(1Lまたは2L)、固定用クリップ
廃液タンク(20L)←※(重金属含有)無機廃液用。
コーヒーフィルター&廃液用漏斗
<留意点>
・作業はドラフト内で行う。白衣、マスク、ゴム手袋、保護メガネを着用する。
・30%過酸化水素及び濃硫酸は劇物であるため、安全データシートを参照し取り扱 いや保管に注意。
・硫酸鉄7水和物は30℃以上となると不安定となるので、夏場の保管に注意する。
・反応後、鉄由来の成分が沈殿したら、廃液をタンクに入れる際コーヒーフィルターで濾すと良い。
・過酸化水素と二価鉄の反応により、熱を産生しサンプル温度が上昇する。温度が上昇しすぎるとプラスチックの形状変化、劣化・消失等が起こりうるので、常時サンプル液の温度をチェックし、60℃を超えないよう水浴の使用や精製水の添加で温度を調整すること。
<Fe(Ⅱ)溶液調製手順>※必ずこの順番で行うこと!
① 硫酸鉄7水和物 7.5gを500mlガラスビーカーに量り入れる。
② ①へ500mlの精製水を加え、スターラーでよく撹拌し溶解させる。
③ ②へ濃硫酸3mlを太穴メスピペットで測り入れよく撹拌する。
④ 漏斗を用い試薬びんに移し、保管する。
<作業手順>
① 「2-1.水酸化カリウム溶液への浸漬処理」を終えたサンプルを0.2mm目合いのニューストンネットで濾し、精製水を吹き付けて水酸化カリウム溶液をよく洗い流す。
② ネットに残ったサンプル内容物の水気を軽く切り、薬さじ山盛り2杯程度ずつ(10~20g程度)1Lのトールビーカーに入れる。
③サンプルを濾したネットに洗浄ビンに入れた精製水を吹き付け表と裏を洗い、洗い流した液はサンプル内容物を含むのでポリビーカー等に受け、後の手順で使用するので保管しておく(☆)。時計皿やラップ等で蓋をしておく。
④ ②のサンプルの入ったトールビーカーに30%過酸化水素水40ml、 Fe(Ⅱ)溶液40ml(過酸化水素と同量)を別々の50mlメスシリンダーで測り入れる。
⑤ 温度計を④にセットし、ラップまたはアルミホイルで蓋をする。
⑥ 試薬が混合するよう最小限スターラーで撹拌したのち、液温がおよそ50℃になるまでホットスターラー上で加熱する。
⑦ 液温がおよそ50℃となったらホットスターラーから外し、温度を注視しておく。反応に伴い液温がさらに上昇し、55℃程度となったら水浴中で冷却し、それでも温度上昇がみられた場合には精製水を加え温度を60℃以下に調節する。このとき作業手順③ (☆) の精製水を使い切ると良い。
60℃以下で反応温度が推移するようであれば水浴より取り出す。試薬添加後約20分間反応させる。
⑧ 再度30%過酸化水素水40mlを加え、⑦の作業を行う。(約20分間反応 )
⑨ 有機物が残っていたら(下部 画像Aの状態)、⑧の作業をもう一度繰り返す。
(約20分間反応 )
(※) 画像Bのように Fe(Ⅱ)溶液への濃硫酸の添加の有無により反応後の液の状態が異なる。濃硫酸添加の場合、有機物の溶け残りがほとんどなければ透明となった反応液を濾過し、濾紙上でプラスチックを取り出すことが可能である。
硫酸を添加しても溶け残りがある場合には、濾紙上でのプラスチックのチェックが困難であるため、➉以降の作業を行うこと。
⑩ プラスチックビーカー(1L)に0.2mm目合いのニューストンネット(※)を固定し、そこへ薬品処理終了後のサンプルをマグネットでスターラーを固定し流し込む。ガラスビーカー内壁を数回洗い、同様に流し込む。
(※)0.2mmの網目の対角線長さは0.3mm未満であるので、よほど細長い形状でない限り0.3mm以上のプラスチック片はネット上に残ると考えられる。ネットを通り抜けた液は無機廃液タンクに廃棄する。
⑪ ネットに残ったサンプル内容物に洗浄ビンを用い水道水を吹き付け、サンプル表面を洗い流したのち、ネットに残ったサンプル内容物を水道水でプラスチックビーカーに洗いこむ。ネットの表と裏を洗い、残っているものがないようにする。
⑫ ⑪を「3. プラスチック採取・ソーティング作業」に供する。すぐに作業しないときはサンプル保管用ボトルに移し冷蔵保管する。この時プラスチックビーカーの内壁もよく洗い、残っているものがないようにする。
追記; Fe(Ⅱ)溶液に濃硫酸を添加しなかった場合、反応液に鉄由来の沈殿物を生じる。沈殿物を除去するためには、⑩で0.2mm目合いのネットを通り抜けた液を廃棄する際、画像のようにコーヒーフィルターを廃液用漏斗にセットし、少量ずつ流し入れると良い。
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薬品処理 反応中の動画
必ず常に温度を測定しながら行う。60℃を超えそうなときは水浴中で行い、必要に応じ精製水を添加する。
画像A
有機物が残っている時の様子。
液面付近にプランクトンと思われる有機物が確認でき、底部には塊が残っている。
画像B
Fe(Ⅱ)溶液に濃硫酸を添加しなかった場合(左)、液は鉄由来物により赤褐色に濁っている。
Fe(Ⅱ)溶液に硫酸を添加した場合(右)、液は透明となる。
薬品処理前のサンプルA
2段階消化後のサンプルA
大部分の藻とプランクトンが除去される。
3. プラスチック採取・ソーティング
★取り出し作業のyoutube動画はこちら
使用する器具
プラスチック取り出し用受け器、付箋、ピンセット(先が細いもの・先がカーブしているものを使い分ける、各1本は最低限必要)、シャーレ
<作業手順>
① サンプル取り出し用受け器に約50mlずつサンプルを入れ、そこへ受け器の約1/2の高さまで水道水を追加しプラスチックを水に浮かせる。
② プラスチックと思われるものをピンセットでつまみ、1つずつ水道水で表面を洗い(プラスチック表面に別のプラスチックが付着していることがあるため)大シャーレに間隔をあけて並べる。作業途中に紛失・破損してしまったものは、計測できなくなるので注意。
※①の手順において、藻やプランクトンなどの自然由来物が水が濁ってしまうほど存在し見づらい場合は、約10mlずつ作業するか、先の曲がったピンセットで自然由来物を1度つまむたびにキムタオルの上で水分を吸わせながら広げ、プラスチックを探す。プラスチックが自然由来物に絡まって水面に浮かんでこないことがあるため水面だけでなく受け器の底に沈んでいるものも上記の手順でよく確認する。
③pl(プラスチック)、es(発砲スチロール)、fb(漁網や釣り糸)の3種類に分類しシャーレを区別する。おおよそのサイズ毎で一つのシャーレにまとめると良い。
④ 目視で取れるプラスチックを採取し、つまめる範囲の自然由来のものを全て取り除いたら、受け器に残った液を容器に入れ、濾過作業までの間冷蔵保管する。
注)ホルマリンが付着したキムタオルなどは産業廃棄物として分類し廃棄すること。
サンプル受け器
サンプル液を入れ、マイクロプラスチック取り出しを行う。
ステンレス製:アズワン品番 4-5640-03
プラスチック製:佐野屋産業株式会社 150-1
いずれも直径15cm程度。
ソーティング後のサンプル
pl(左)、es(中央)、fb(右)でシャーレを分ける。
顕微鏡撮影不可能な約8mm以上のサイズのものは上段のように別シャーレに種類ごとに分別。
サンプルごと1箇所にまとめ、サンプル名を記入した付箋をそばに貼っておく。
シャーレ
左:大(直径9cm、現在生産停止)は取り出し時に用いる。
右:小(直径5.5cm、アズワン品番:1-8549-02)はろ過時やサンプル保管に用いる。
いずれもポリスチレン製。
4. 濾過作業
★濾過作業のyoutube動画はこちら
サンプル開封時に0.3mm目合いのニューストンネットを通り抜けた海水、および取り出し作業終了後受け器に残った液を吸引濾過し、微細なプラスチック片の確認・取り出しを行う。
使用する器具・機器
白衣、マスク、ゴム手袋、洗浄ビン、水道水
吸引濾過器:以下<>の器具を組み合わせて作成。
<フィルターホルダーマニホルド 5連式(AS ONE)、47mmポリサルホンホルダー (ADVANTEC, 型式:KP-47U )、エアーポンプ(15L/min)、 吸引濾過ビン(500ml)、シリコンチューブ、チューブジョイント、ゴム栓、二方コック>
2L(または1L)プラスチックビーカー(手付き)、薬さじ、フィルターピンセット、小シャーレ(ろ紙乾燥用)
ろ紙(Whatman, Grade4:粒子保持能20-25μm, CAT No. 1004-047)
黒色ろ紙(ADVANTEC, No.2, 粒子保持能 5μm, 品名:JIS P 3801)
メンブレンフィルター(ADVANTEC, 孔径0.8μm, 素材:mixed cellulose ester、直径47mm, ITEM No. A080P047A, black )
ルーペ(15×)、小シャーレ(新品)、大シャーレ、先の細いピンセット
廃液タンク(20L)←※廃液タンクは、薬品処理の有無で無機廃液用タンクと有機廃液用タンクを使い分ける。
<留意点>
・作業はドラフト内で行う。白衣・マスク・手袋を着用。
・薬品処理を施したのち取り出し・濾過作業を行ったものに関しては、念のため濾過後の廃液を無機廃液に分類している。またサンプル液が赤褐色に濁っている場合、黒色ろ紙を使うと比較的チェックが容易である。
<作業手順>
① 吸引濾過器にろ紙、またはメンブレンフィルターをセットする。
使用するフィルターは、濾過を行うサンプル液の状態により選択する。
(例1)サンプル液が濁っていたり、粘度が高かったりして詰まりやすいと予測される場合は、ろ紙(Whatman, Grade4:粒子保持能20-25μm)を選択。
(例2)取り出し時マイクロプラスチックが多数(2Lサンプルボトル中およそ1000個以上)確認されたサンプルで、かつ含まれる異物(プランクトンや藻など)が少なくサンプル液が透明である場合は、黒色ろ紙(ADVANTEC, No.2, 粒子保持能 5μm)またはメンブレンフィルター(ADVANTEC, 孔径0.8μm)を選択。ただしメンブレンフィルターは非常に詰まりやすいので20~30ml程度から試すと良い。
② サンプル液を2L(または1L)プラスチックビーカーへすべて移す。薬さじでかき混ぜたのち適量(※)のサンプル液を分注し、吸引濾過器接続のポンプのスイッチを入れ、吸引ろ過を行う。
(※)ろ紙1枚ごとに濾過する液量はおよそ30ml~100ml程度。メンブレンフィルター1枚ごとに濾過する液量はおよそ20ml~50ml程度。(詰まらないことが前提であるが、1枚のろ紙に付着する有機物の量が多すぎてろ紙のチェックが困難とならないように前述の通り初めは20~30ml位ずつから試してみて、「液の通りやすさ」・「ろ紙への付着物の量」双方の様子を見ながら決める。)
③ 濾過後、廃液が溜まったらその都度廃液用タンクに排出。廃液の処分は適正に行う。
(薬品処理なし→有機廃液用タンク、薬品処理あり→無機廃液用タンク)
④ 濾過終了後、ろ紙をフィルターピンセットを使って1枚ずつ小シャーレに並べ、室温で一晩乾燥の後、ろ紙上のプラスチック片をルーペで探し(ろ紙全体が見やすいよう大シャ―レに1枚ずつ乗せてチェックする)、新品の小シャーレにピンセットで取り出す。
⑤ ④を撮影・FTIR分析に供する。
注)チェック終了後のろ紙・メンブレンフィルターは産業廃棄物として分類し廃棄すること。
吸引濾過器、ポンプ、廃液タンクの設置図
小シャーレにろ紙を並べ一晩乾燥
手前にサンプル名の付箋を貼っている。
ろ紙を大シャーレに乗せルーペでチェックし、微細なプラスチック片を新品シャーレに取り出す。
サンプル名の付箋をシャーレに貼っておく。
使用する各種フィルター
ろ紙(左)
黒色ろ紙(右上)
メンブレンフィルター(右下)
適量のサンプルを濾過したときのろ紙
サンプルが薄く均等に広がっており、プラスチックを見つけやすい。
過剰な量のサンプルを濾過したときのろ紙
画像ではわかりにくいが、このように厚みがあったり、プランクトンが重なりあっていたりするとプラスチックが見つけづらい。
5. プラスチック粒子の撮影とFTIR分析
★撮影とFTIR分析の動画はこちら
使用する器具・機器
実体顕微鏡 (OLYMPUS SZX7, 接眼レンズWHSZ10、対物レンズDFPL 0.75×-4)
USBカメラ (AS ONE HDCE-X3N)、顕微鏡ソフト(scopeimage)、PC
ミクロメータ、シャーレのふた、撮影用の金属製のフレーム(非売品)
フーリエ変換赤外分光光度計(以降、FTIR)(Bruker ALPHA-PとSHIMADZU IRAffinity-1Sの2機種を使用、SHIMADZUには劣化プラスチックライブラリを搭載している)
サイズ計測用ソフト(Image J)、ノギス
エタノール(特級)、キムワイプ、先の細いピンセット
保存用シャーレ、パラフィルム 、ラベル(ビニールテープ)
<留意点>
・はじめに顕微鏡の倍率の確認・設定を行う。ミクロメータをピントを合わせ顕微鏡で撮影後、1mm当たりのピクセル数(実際のサイズに変換する際必要となる)をImageJで確認する。ImageJの使用方法は下記5の項を参照。
複数台の顕微鏡を同一研究室で使用する際は2台目以降の顕微鏡も1mm当たりのピクセル数が同じになるようズームハンドルで倍率を調整する(顕微鏡ごとの誤差が生じないように)。
ズームハンドルが動かないようテープ等で固定したら、固定後も倍率に狂いが生じていないかを必ず再確認する。
・撮影時、金属製の枠(ワイヤ幅0.3mm、各マス目の間隔5mm)を使用。
5-1. 顕微鏡写真の撮影
① scopeimage を起動。
② 金属製の枠を撮影画面に合わせ、マイクロプラスチックサンプルを1つずつマス目の中央に乗せる。「キャプチャ」ボタンをクリックし、画像ファイル名を入力し、サンプルごとの画像フォルダに保存していく。プラスチック片はpl、発泡スチロールはes、漁網・釣り糸はfbと入力している。それぞれ001,002,003…と番号をつけていく。
(例)プラスチック 1枚目は「pl001」、2枚目は「pl002」、、、
同様に、発泡スチロール1枚目は「es001」、漁網・釣り糸1枚目は「fb001」と入力。
③ 1枚撮影のつど、FTIR分析を行い(FTIR分析に関しては下記<FTIR分析>参照)、プラスチックとそれ以外の浮遊物を判別する。
分析後、小シャーレにサンプルを保管する(pl、es、fbの3種に分類。 シャーレにラベルを貼り、内容物がわかるよう記入)。FTIR分析で形状が変わってしまったプラスチックサンプルはまとめて別シャーレに保管する。
④ ろ紙より取り出したプラスチック片も同様に撮影する。
⑤ サンプルのサイズが大きく、PC画面に入りきらないものは撮影せず、別シャーレに保管しておき、後ほどノギスでサイズを計測する。プラスチックかどうか目視で判断がつかないときはFTIRで素材の確認をする。 ノギスでサイズを計測したプラスチックサンプルも、他のサンプル同様サンプル名を付しシャーレに保管する。
顕微鏡
OLYMPUS SZX7
USBデジタルカメラ
AS ONE型番: HDCE-X3N
ミクロメータ
株式会社フジコーガク OSM1
ズームハンドルの固定
1mm当たりのピクセル数をきりの良い数値にしたいときや、
複数の顕微鏡を正確に同倍率に設定したいときはテープで固定する。
撮影時使用している金属製の枠
ワイヤ幅0.3mm、各マス目の間隔5mm
シャーレのふた(内側)に乗せ使用。
プラスチック片はできるだけマス目の中央に乗せ撮影する。
保管時のシャーレ
内容物がわかるようラベルを貼り、パラフィルムでふたを固定。
年度ごとにコンテナにまとめている。
5-2. FTIR分析 (※操作方法は機種により異なるため、基本的な手順のみ記載)
① FTIRを起動する。
② 試料台にサンプルを乗せる前に、 エタノールをしみこませたキムワイプで試料台を拭く。乾いてからバックグラウンド測定を行う。(バックグラウンド測定は分析中も1時間に1回位行う。マイナスピーク出現時や、ベースラインが乱れたときにもその都度行う。)
③ 試料台にサンプルを乗せたらバーを下げ、試料をはさむ。バーの高さを微調整しスペクトルをはっきり表示させる。
④ 測定開始ボタンを押す。スペクトル検索を行いライブラリ中の標準物質と照合を行い(ピークピッキングやシングルピークピックでピーク位置を確認するのも有効)、プラスチックの種類を判別する。海表面で採取したサンプルに含まれるプラスチックは大半がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンであるが、時折それ以外のプラスチックも出現するのでそのような場合にはスペクトル検索を行う。
注)サンプルに厚みがある場合や、サンプル表面に有機物が付着している場合、うまく材質判定ができないので、カッターでカットしたり表面を拭き取ったりして分析を行う。
⑤ 分析中にサンプルが壊れてしまったら、画像ファイル名に「pl001x」のように最後にxを付ける。分析後にサンプルが小さすぎたり紛失したりして回収できなかった場合は、「pl001xx」のように最後にxxを付ける。
⑥次のサンプルを分析する前にエタノールをしみこませたキムワイプで試料台を拭く。以降③~⑥を繰り返す。
Bruker FTIR ALPHA
SHIMADZU FTIR IRAffinity-1S
6. サイズ計測と集計
★サイズ計測作業のyoutube動画はこちら
<留意点>
・サイズ計測の前に画像ファイル名に重複や欠番がないか確認を行う。
・プラスチック片が1000個を超える場合、1001番目以降は画像フォルダを別にするとimageJでのサイズ計測の際作業がスムーズとなる。
<プラスチック片のサイズ計測手順>
① 撮影終了後、ImageJでサイズを計測する。ImageJを起動し、File→openで計測したい画像ファイルを開いて、左から5番目の直線ツールをクリック(画像C)。マウスのクリック&ドラッグでプラスチック片の一番長い場所に沿わせ(画像D)、キーボードのMキーで長さを計測する。Mキーを押すと表示される(画像E)表中、右端のピクセル数(Lengthの列の数値)をもとに実際のサイズを求めることができる。
② 次の写真をShift+Oで開き、同様にすべてのサンプルの長さを計測していく。サイズ計測はpl、fb、esそれぞれで行う。
③ サイズを計測し終えたら、ImageJのテーブルをすべて選択(Ctrl+A)し、コピー(Ctrl+C)してExcel集計表(☆Excel集計表はこちらに公開しています。※要注意 1mm当たりのピクセル数を250としたもの。他の換算係数のときは使用できませんので、変更し使用してください。)の所定の位置(O列~U列)にペーストする。Excelの集計表にはpl、fb、esそれぞれに対応するタブがあるので、ペーストする場所に注意する。
④ サンプルのサイズが大きく、PC画面に入りきらなかったものはノギスでサイズを計測し、Excel集計表(D列)に手入力する。
⑤ Excel集計表の「個数」タブにpl、fb、esのサイズ別の個数、総数が表示される。
画像C
カーソルで示す直線ツールを選択。
画像D
プラスチック片の最大径を選択。
端をクリックし、もう一方の端までドラッグし、もう一度クリック。
画像E
計測結果(Results)が表示される。
Lengthの値をミクロメータで求めた換算係数(1mmあたりのピクセル数)で割ると実際のサイズ(単位:mm)となる。